2012年11月26日月曜日

<ある新聞から>


7、8年前まで使用されていた旧5千円札の人物と言われても、忘れてしまった方が多いかもしれない。描かれていたのは戦前に国際連盟事務次長などを務めた国際人、新渡戸稲造だった。米国研究の草分け、植民政策の第一人者、旧制一高校長、女子教育の推進者……。様々な分野に大きな足跡を残した。今年、生誕から150年を迎えた。ジュネーブの連盟事務局では、スピーチで新渡戸の右に出る者はいないと言われていたという。深い教養に裏打ちされた説得力のある演説が聴衆に感銘を与えた。機知に富んだ英語も魅力的だった。日露戦争終結の際に仲介したセオドア・ルーズベルト米大統領が、新渡戸の「武士道」の愛読者だったこともよく知られている。新渡戸もデモクラシーを「平民道」と訳し、その意義を説く親米家だった。だが、排日移民法が成立すると批判の急先鋒となった。国際協調を説く一方、理不尽な動きは許さなかった。領土や歴史問題をめぐり日本の国際社会への発信力が今問われている。新渡戸なら、どんな言葉で訴えかけただろうかと改めて思う。

0 件のコメント: